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お鉢
太陽が頭上高くに昇ると陽射がキツくなるから、涼しいうちに犬の散歩にでる。

それでも犬はすでに暑そうに、ハアハアと頭をふり荒い呼吸をあげていた。

幾らか犬も散歩に気が向かないようにみえる。青い稲穂が実る水田の畦などを周り、

戻る家が見えてきてきた頃、足先を運ぶ道の中央に、何やら蠢くものが落ちていた。

焦点をあわせて近づいてみると、褐色の長い角を持つ甲虫の頭で、そこから伸びた2本の足は、

ゆっくりともがき空を描いていた。身体は何処にも無く。辺りに散らばったのは硬い羽のみ。

おそらく甲虫よりはるかに大きな鳥に襲われ食われたのだろう。その結果の施しに群がる小蟻が、

せっせと手際良く甲虫を解体し、食料として巣穴のなかに運んでいた。。その兜の角をつまみ上げて、

じっくりと見つめて掌にのせる。細い足の動きが停止。この神経に繋がらない脳は、

自ら歩行や飛行し動くこともできないこと気がつかぬまま、どのくらいこの様に生きていたのだろう。

止まってしまった兜を、もう一度あった場所にも戻すと、再び壊れた玩具のように死のリズムを刻んだ。

犬は兜などには目もくれないようで、そんな飼い主の憐れみなども理解しない。足元にいる小蟻も黙って、

陽射しの影のように動き続けていた。厭に暑くなった気がした。

部屋に戻り、洗面台のさっきの兜の角に似た蛇口をひねり、流しで手をゴシゴシと洗った。キュ。

バタン。冷蔵庫のなかに顔を突っ込んで、冷気に頭を冷やしながらから、赤く熟したトマトに手を伸ばした。

ジュルとかぶりつくと、トマトの汁が腕をゆっくり、ゆっくりつたって流れた。妄想する。

甲虫の兜は生首でもあり、あれが人の頭なら。さしずめここから先はわが領土の証し。

立入り禁止の見せしめだろうな。または頭のことを鉢ともいうから、あの道で石にでも躓き、

あの生首と頭がぶつかれば、鉢合わせ。戦国の世で兜を被っていた生首なら、

こちらは槍持ち一兵卆で鉢巻きもしていたかもしれない。ジュル。子供の頃だって、

『アラ坊や、お鉢が大きいのね、賢い子。』などと言われた記憶もある。鉢被り姫という昔話もあった。ジュル。

そんなこんなで大人になったら、いろいろと仕事の役回りで、お鉢がまわってきたりした。ジュル。

それで役にでも立ち、度量のデカイとこでも見せたら、あの人はうつわが大きいといわれる。

まあそんなことは自分にはないが。ジュル。何か生首にも似た赤いトマトを食べ終えると、

アトリエにいきロクロにのり、粘土で鉢を挽こうと自分の小さなお鉢で考えた。

人間が器に例えられ、そいつが鉢を作っている。客観視すると、器が器を考えて作る。奇妙になった。

鉢巻きまいて鉢作りがんばろう。 出町光識

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by super-bird | 2009-08-14 20:52 | 気になるおしゃべり
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