人気ブログランキング | 話題のタグを見る
<< 不動明王 山師とイサム >>
馬鹿まるだし
もうすでにひと昔前の記憶になる。

若い自分は大きなダンボール3箱を抱えて、東京銀座にあるA画廊に

自作の焼き物を売り込みに行ったことがある。


A画廊は業界的には独自のマニア路線を展開し

画廊主Nさんの色がハッキリと出ている。

現代作家と骨董を扱い、オリジナルな視野は

『環太平洋民俗美術』という括りで蒐集販売をしていて興味は尽きない。

追い続けてきた中国熱も最近は良い方向に進んでいるらしい。


あの時も画廊主Nさん主は営業中であるにも関わらず、

画廊展示台に並んでいた河井寛次郎さんや鯉江良二さん、

中国古陶磁などをためらいなく台から下ろしては、

ダンボール箱の中から自分のつたない焼き物を取り出して、

画廊店内に並べ始めた。


画廊主Nさんの破天荒な行動に、自分は息をのみ魅せられてしまった。


さながらA画廊は自分の作品個展会場になり、

画廊主NさんとA画廊で働くSさんが、作品を眺めながら批評会となる。


もちろん開店中の画廊なので、続々とお客さんがやってくる。

例えば来店する人の面々も、画廊主Nさんと変わらぬ常連の趣味人が多く、

Nクラフト協会の理事さんだの、華人N・Hさんなど、若い自分は恐縮するばかりだ。


当然他にも常連以外のお客さんも来るわけで、

楽しみにA画廊を見に来た人もいるだろうし、自分の焼き物などには

興味なく見向きもしないで無言で帰っていく人もいる。


そんな入り口ドアを後にしていく人を見て画廊主Nさんは

『今の誰だっけな~。暗いな~。根暗な奴は来なくていいよ。
  明るくなきゃダメ、ぜったい明るい方がいいよ!』

緊張ばかりな自分は、身体全体になおも汗が噴出し

その言葉にも惹きつけられる。


並んでいる焼き物のつたなさは作品までにはいたらない。

それでも常識ない若僧の行動に、皆さんがいくつかの焼き物を買い求めてくれ、

自分の作ったものが初めて売れた時でもある。


先日の松屋銀座さんでの個展にA画廊主Nさんと

数年前に独立し開廊した、今は画廊主Sさんが来てくれた。

画廊主Nさんは相変わらず豪快に。。。。。。

『ガンガン、行かなきゃダメだよ~!もっと○○しなきゃ!明るくて楽しいのがいいぞ~!』

画廊主Sさんは。。。。。

『言葉は悪いが、今でもあの時にA画廊に来たような馬鹿なはいないね。』

などと会話を楽しんだ。


今の時代に画廊も作家も、個性的に生き抜いていくのは厳しく、難しい。

それでも何処かに必ずそのような人はいる。

人との出会いというのは縁や運もあるが、やはり1番重要なのは

自ら知性を捨て、人から見られて馬鹿でいることだと思う。


馬鹿まるだしで皆さんも損得勘定抜きに生きることも薦めたい。

そこに自分を見つめる機会も生まれるのだから。   出町光識


応援のクリックを。

にほんブログ村 美術ブログへ

人気blogランキングへ
by super-bird | 2008-02-10 10:15 | 気になるおしゃべり
<< 不動明王 山師とイサム >>